mother

守るべきもの

心療内科①

「……おはよう」

 

翌朝

ワイシャツを羽織り

二階から降りてきた夫に

そう声をかけた。

 

もちろん

夕べの壁の穴の出来事には

一切触れない。

 

触れられないと言ったほうが正しい。

 

おはようと

夫から

以前のような返事が返ってくれば

私たちはまだ大丈夫。

 

そんな私の小さなカケ。

 

しかし、返事は返って来ない。

 

健太郎さん

味噌汁食べるでしょ?」

 

「……いらない」

 

平静を装う私に

吐き捨てるように言うと

夫は洗面所へと向かった。

 

今の夫から感じるものは

私への得体の知れない

怒りと苛立ち。

 

会話をする度

今までとは違う

夫の冷たい言葉が

 

昔と変わらず

無防備なままの私の心に

容赦なく突き刺さる。

 

その度

私の心からは血が流れ

鋭い痛みに

私はその顔を歪めるのだ。

 

 いったいあなたに何があったの?

私がなにをしたの?

本当のことを言ってよ。

 

これ以上

傷つけられるのが怖くて

吐き出せずに飲み込む言葉。

 

大丈夫。

暫くすれば

きっと元の夫に戻るはず。

時間が解決してくれるはず。

 

しかし心の中のもう一人の私は

どうしてもそれで良しとはしない。

 

本当はなにか

隠し事があるんじゃないだろうか。

私には言えない何か。

 

大きな不安の渦の中に

私はどんどん

呑み込まれていった。

 

もうしばらく

夜もほとんど眠れていない。

 

食事もあまり摂れていない。

 

家事も仕事も

以前のようにはできなくなった。

 

私が私でなくなってしまいそうで怖い。

 

このままでは私

正気を失ってしまうのではないだろうか。

 

もしそんなことになったら

大事な三人の子供たちは

いったいどうなる。

 

家庭は?

 

設計事務所は?

 

きっとみんなめちゃくちゃになってしまう。

 

私しか出来ないこと

私がやるべきことが

家にも事務所にもたくさんあるのだ。

 

代ってくれる人なんていない。

いったいどうしたらいいのだろう。

 

でもこんなこと

相談できる人は誰一人いない。

 

私は一人きりで

この不安を抱えるのは

もう限界だった。

 

 

 

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